UX Design
上海と台湾でインバウンドメディアのユーザーテストを実施して得られた発見
メタフェイズは、上海にも拠点があります。現地で、日本企業をはじめとするデジタルマーケティング戦略のサポートをするためですが、最近では中国人の訪日旅行者(インバウンド)をターゲットにしたWebメデイアの設計やデザインについてのご相談も多くいただきます。2017年には、日本の大手メディア企業が運営されているインバウンド向けメディアのサイトリニューアルに携わりました。なかでも、プロトタイプデザインのユーザーテストを上海と台湾で行う機会があり、私たちにとっても多くの発見がありましたので、今回はそのことについて紹介します。
中国と台湾でユーザーテストを行うことになった背景
今回、中国でユーザーテストを行う目的としては、メディアのターゲットである20~30代の中国人富裕層女性について調査データが少なく、推測や仮説立てが難しいユーザー層だったことが理由です。
彼女たちは、中国人富裕層のなかでも「ニューリッチ」と呼ばれ、情報に対する感度が高く興味関心の移り変わりが速い、という特徴があります。
サイトにはユーザー視点での検証を経たデザインやユーザービリティを反映しなくてはなりません。そこで、現地でユーザーテストを行うことになりました。また、ターゲットの多くは中国沿岸部と台湾に居住するため、サイトの対象言語は中国語の繁体字と簡体字です。
そのため、ユーザーテストは弊社拠点がある上海に加えて、台湾でも行いました。
なお、台湾でのユーザーテストはパートナーであるクロスフィニティ社の支店にて、上海からリモートで実施しました。
ユーザーテストの詳細は以下のとおりです。
ユーザーテストの流れ
1. 事前アンケート(10分)
テスターの属性・生活状況・経験についての事前アンケート調査を実施。
2. ユーザーテスト(40分)
1対1の対面で行うデプスインタビュー形式で実施(台湾はオンラインでリモートインタビューを実施)。
複数のシナリオに沿ってデザインされたプロトタイプのサイトを模擬利用してもらいました。
ユーザーテストでは、閲覧行動をモニタリングしながら行動分岐点での選択に応じて質問とフィードバックを回収し、目標完遂後に全体利用を通しての総括的なインタビューを行いました。
3. 事後アンケート(10分)
インタビュー終了後、ビジュアルデザインの定性評価を目的とした事後アンケート調査を実施。
ユーザーテスト参加者
・モデレーター(弊社スタッフ)
・オブザーバー(弊社スタッフ)
・テスター(現地リクルーティング)
上海在住・社会人女性:4名
台湾在住・社会人女性:4名
ユーザーテスト実施時間
1人あたり60分程度
「中国人」を理解するために押さえておきたい3つの違い
ユーザーテストで得た発見は3つありました。
1) ユーザーテストで明確になった"中国"と"台湾"の違い
私たちは当初、上海と台湾の被験者を"中国人ユーザー"や"中国人旅行者"という、同じグループとして分類していました。両者には歴史的な隔たりはあれども文化的な差異は小さいため、どちらの言語においても同一のデザイン・設計を施す想定でした。
ところが、これは先入観から生まれる最も陥りやすく、かつ致命的な勘違いでした。
ユーザーテストを通じて理解したことは、台湾のユーザーには中国とは独立した文化や思想があり、それによって嗜好や判断基準は明らかに異なるということです。
事前に予想はしていたことですが、ユーザーテストを実施したところ想定以上に差異が大きいことがわかりました。
これは一般的なメディアとの関わりにおいても顕在化しており、サイトに求める役割やユーザービリティも大きく異なりました。
具体的には、上海のユーザーはコンテンツの有用性や信頼性以上に、ビジュアルを重視する傾向があります。そのため、サイトの初期評価は見た目で判断されており、欧米的なデザインが好まれるのです。
それに対して、台湾のユーザーはニュースなど公益性が高い情報もブログなどのUGM(ユーザージェネレーテッドメディア)を通じて日常的に閲覧しています。そのため、コンテンツに記載される情報の信頼性や有用性を重視する傾向がありました。結果として、デザインへのフィードバックは情報の信頼性を担保する情報であることをいかに認知させることができるか、という意図のものが多くありました。
ユーザーテストを通じて得られた"中国"と"台湾"の違い
中国(上海)のユーザー | 台湾のユーザー |
---|---|
・ビジュアルを重視する傾向が強い ・欧米的なデザインが好まれる |
・情報の信頼性や有用性を重視する傾向が強い ・情報の信頼性が認知できるデザインを好む |
2) 中国は地域によって消費ニーズがまったく異なる
私たちは、中国という国と国民を「中国人」とまとめてしまいがちです。
中国国内でデジタルマーケティングをソリューションとして提供している企業の代表と、中国での越境事業展開について話をした際に、中国について次のように語ってくれました。
「"ひとつの国家"を標榜する中国の実体は、漢民族と55の種族が集合した大多民族国家であり、社会共産主義という強力な宗教によって統制されているに過ぎない。
本来的には、多種多様な文化圏を内包している小さな国の集合体なので、地域の文化や言語の多様性と独自性を考慮することなくビジネスは成り立たない。」
事実、中国国内のマーケティング調査では各省および省内地域によって、消費者はまったく異なるニーズを持っていることがわかっています。
例えば、沿岸部の広東省や浙江省ではファッション消費のニーズが圧倒的に高い傾向があります。であれば、容姿に影響あるヘルスケア商品の消費ニーズも同様に高そうですが、そちらは内陸部にある四川省が高いという結果が出ています。
同様に、貴金属でもダイヤモンドなら山西省、金なら海南省、クリスタルは四川省と明確な消費ニーズがあります。また、スマートフォンなら上海はiPhone、北京ならAndroidが人気...など、地域によって大きな差が存在します。
つまり、中国においては実際にサービスを展開する地域のユーザーを理解して最適化を図らなければ、ユーザービリティを高めることは難しいのです。また逆に言えばターゲットを絞ることでユーザービリティを担保する必要があるのです。
なお、今回のインバウンド向けメディアでは、簡体字サイトが中国沿岸部、繁体字サイトが台湾を明確なターゲットに設定していたため、各サイトに対するユーザーテストの評価が散在しなかったのは良かった点でした。
3)中国は、世代によっても嗜好やニーズが異なる
中国は世代間のギャップが大きい国でもあります。
70年代生まれは、兄弟が多く貧しい生活を経験した世代が多く、若いときからインターネットに触れた人は少なかったとされています。
一方で、80年代生まれは親が成功して中流以上となった家庭が多く、ネットにも慣れ親しんでいます。
そして、90年代生まれは裕福であることが多く、また一人っ子政策で兄弟がいないためにネットとの親和性は高い傾向にあります。さらに、デジタルツールが生活の一部として浸透しており、目が肥えているとも言われています。
今回のユーザーテストでは、80年代後半から90年代生まれをターゲットにして被験者を集めました。そして、被験者に接してみると彼らは日本人以上にデジタルネイティブであることに驚きました。
日常的に利用するアプリの多さや、シンプルでミニマルなサイトを好む傾向など、私が当初抱いていたレガシーな"中国人ユーザー"像からはかけ離れており、改めて実際のユーザーに対面してヒアリングやテストを行えたことの有用性を認識することができました。
中国人ユーザーに向けたインバウンド事業展開に必要なこと
日本で意識することは少ないですが、特に中国という国において"中国人ユーザー"というペルソナは存在しません。
中国は、地域や世代によって多様なアイデンティティを持つ国であるため、事業展開をはじめクリエイティブの展開においても、適切なターゲット選定と検証を事前に行うことが重要です。
訪日外国人数は過去最高値を5年連続で記録し、また国別では中国大陸部からの訪日人数が最多という状況です。2020年のオリンピックイヤーに向けて、今後ますますインバウンド向けのビジネスやサービスの展開も増えることでしょう。
もし、インバウンド向けの事業展望をお持ちであれば、前述した3つの点からターゲットユーザーを絞り込み、ユーザーテストでの検証と改善プロセスを取り入れることを強くお勧めします。
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